精液検査とは|男性不妊の初診前に知っておきたいこと

男性不妊・不妊治療

「精液検査を受けてみようと思うけど、何を調べるのか、どう準備すればいいのかわからない」——そういった声を、不妊治療の初診でよくお聞きします。不妊の原因の約半数に男性側の要因が関わるとされており(日本産科婦人科学会、2022年)、精液検査は男性不妊を評価するための基本的かつ重要な検査です。痛みはなく、採血よりも手軽に受けられますが、正確な結果を出すためには事前の準備がいくつか必要です。この記事では、精液検査でわかること、WHO基準値の読み方、当日の流れと費用、結果の次のステップを、産婦人科医の立場から整理してお伝えします。

この記事でわかること

目次

精液検査でわかること What semen analysis measures

精液検査(精液分析・semen analysis)は、射精された精液を顕微鏡で観察・計測する検査です。主に以下の4つの指標を評価します。

1. 精子濃度(精子数)

1mLあたりの精子数を測定します。濃度が低い状態を「乏精子症」といいます。精子濃度は、禁欲期間や体調によって日々変動するため、1回の結果だけで判断せず、複数回の測定が推奨されます。

2. 精子運動率

全精子のうち動いているものの割合を「総運動率」、前に進んでいるものの割合を「前進運動率」として測定します。運動率が低い状態を「精子無力症」といいます。卵子のある卵管まで到達するには、精子が自力で泳ぐ必要があるため、運動率は自然妊娠の可否に直接関わります。

3. 精子形態

頭部・頸部・尾部の形が正常な精子の割合を評価します。形態が正常でないと受精能力が低下するとされています。ただし、正常形態率の判定は検査方法( Strict Criteria / Kruger Criteria )によって数値が異なるため、数字だけを単純に比較することには注意が必要です。

4. 精液量・pH・白血球数

精液量が少なすぎる(1.4mL未満)場合は「精液量減少症」、多すぎる場合は精子が希釈されていることがあります。また、白血球が多い場合は感染・炎症の可能性を示唆します。pHが異常な場合は精路閉塞や感染の指標になることがあります。

ここがポイント

精液検査の数値は「受精できるかどうか」を直接証明するものではありません。基準値を満たしていても妊娠しないケースも、基準値を下回っていても自然妊娠するケースもあります。あくまで「次のステップを考えるための手がかり」として活用します。

WHO基準値と当院の判定基準 WHO reference values and our clinical standards

精液検査の基準値として世界的に参照されているのが、世界保健機関(WHO)が発行する「WHO Laboratory Manual for the Examination and Processing of Human Semen」です。2021年に第6版が発行され、2010年の第5版から一部の数値が改訂されました。

検査項目 WHO 第5版(2010年) WHO 第6版(2021年)
精液量 1.5 mL以上 1.4 mL以上
精子濃度 1,500万/mL以上 1,600万/mL以上
総精子数 3,900万/精液中以上 3,900万/精液中以上
前進運動率 32%以上 30%以上
総運動率 40%以上 42%以上
正常形態率(Strict Criteria) 4%以上 4%以上

出典: WHO Laboratory Manual for the Examination and Processing of Human Semen, 5th edition (2010) および 6th edition (2021). World Health Organization. 赤文字は第6版で変更された値。

これらの基準値は、12か月以内にパートナーが自然妊娠した男性のデータから算出した「5パーセンタイル値」、つまり下位5%の境界線です。「基準値を超えれば妊娠できる」という保証ではなく、「この値を下回ると妊娠に時間がかかる可能性がある」ことを示す参考値として理解してください。

当院での判定の考え方

当院(操レディスホスピタル)では、WHO第6版の基準値を参照したうえで、奥さまの検査結果や年齢、不妊期間と合わせて総合的に評価します。基準値を1項目だけ下回った場合でも、再検査を経てから次のステップを提案しており、数値だけで治療方針を決定することはありません。

検査前の準備 How to prepare for semen analysis

禁欲期間:2〜7日間が基本

WHOガイドラインでは、検査前の禁欲期間(最後の射精からの間隔)は2〜7日間が推奨されています(WHO, 2021)。2日未満では精子濃度が低く出やすく、7日を超えると運動率が低下する傾向があります。当院では2〜5日を目安にお伝えしています。

体調・生活習慣の影響

精子の状態は、検査の2〜3か月前の体調・生活習慣の影響を受けています。精子は精巣で約74日かけて作られ、精巣上体で成熟するため、検査の数日前だけでなく、それ以前の体調も結果に反映されます。

薬剤の影響

一部の薬剤は精子数・運動率に影響することが知られています。特に抗がん剤、免疫抑制剤、一部の降圧剤、精神科領域の薬剤などは影響が出ることがあります。服用中の薬がある場合は、受診前に担当医または当院スタッフにお申し出ください。市販のサプリメントについても、成分によっては影響する可能性があります。

検査前日までに確認しておくこと

精液検査の受け方や準備の詳細は、初診でご説明します。
まずはお気軽にご相談ください。

検査当日の流れ What happens on the day of testing

当院での精液検査は、おおよそ以下の流れで進みます。事前に確認の取れていない部分は、担当スタッフから当日ご案内します。

受付・問診

受診票と問診票に必要事項を記入します。禁欲期間、服用中の薬、既往歴などを確認します。

採取室または自宅採取の確認

院内の専用採取室でマスターベーション法により採取します。自宅採取を希望する場合は事前にご相談ください。採取容器は当院でご用意します。

検体提出

採取した精液を提出します。検体は室温または体温に近い状態で管理することが重要です。時間が経過すると運動率が低下するため、採取後はなるべく早く提出します。

分析(院内処理の場合 約30〜60分)

顕微鏡を使って精子濃度・運動率・形態などを測定します。院外検査機関に委託する場合は数日かかることがあります。

結果説明

医師が検査結果を数値とともに説明します。必要に応じて再検査や追加検査の提案があります。奥さまと一緒に説明を受けることもできます。

結果の読み方 How to interpret your results

検査結果は、WHO基準値と照らし合わせながら3段階でおおまかに評価します。ただし実際の診断は医師が総合的に判断するものであり、数値のみで「不妊」と決まるわけではありません。

正常範囲内

全項目がWHO第6版の基準値を満たしている場合です。ただし、基準値内でも妊娠しにくいケースもあるため、奥さまの検査結果と合わせて総合的に評価します。不妊期間が1年以上続いている場合は、正常範囲内でも追加検査を検討することがあります。

要再検査(1〜2項目が境界域)

1〜2項目が基準値をわずかに下回るか、変動の大きい結果が出た場合は、数週間後に再検査を行います。精液の状態は体調や禁欲期間によって変動するため、1回だけの結果で判断することは適切ではありません。再検査で安定して基準値を満たすようであれば、治療を急ぐ必要がないこともあります。

精査が必要(複数項目が著しく低値)

複数の項目が基準値を大きく下回る場合、または精子がほぼ確認できない「無精子症」が疑われる場合は、追加検査と専門的な治療を検討します。この場合も、治療法はいくつかあり、必ずしも高度な不妊治療が必要とは限りません。

異常があった場合の追加検査と治療 Next steps when results are abnormal

内分泌(ホルモン)検査

精子濃度が極端に低い場合や無精子症が疑われる場合は、LH・FSH・テストステロン・プロラクチンなどのホルモン値を測定します。精巣機能の評価に役立ち、内分泌療法の適応があるかどうかを判断します。

染色体・遺伝子検査

高度の乏精子症や無精子症では、クラインフェルター症候群(47, XXY)やY染色体微小欠失など、染色体・遺伝子の異常が原因となっている場合があります。検査が必要かどうかは医師が判断します。

泌尿器科・男性不妊専門医との連携

精索静脈瘤(精巣への血流障害)や閉塞性無精子症など、外科的な対応が有効なケースでは、泌尿器科・男性不妊の専門医をご紹介します。手術によって精液所見が改善する場合もあり、高度不妊治療をすぐに選ばなくてよいケースもあります。

治療の選択肢

当院では2024年度に採卵533件・移植523件・臨床妊娠率46%の実績を持っています(出典:操レディスホスピタル 2024年培養室実績)。男性側の精液所見に課題があるケースでも、ご夫婦の状況に合わせた治療ステップを一緒に考えます。

費用と所要時間の目安 Cost and time required

費用

精液検査の費用は、保険診療か自費診療かによって異なります。

当院の費用詳細について

当院(操レディスホスピタル)での精液検査費用は、初診時または検査前にスタッフがご説明します。保険診療か自費かによって金額が変わるため、まずはご相談ください。

所要時間

カップルで受ける意義 Why both partners should be involved

不妊の原因は女性側だけにあるわけではありません。原因が男性側にある割合は約24%、男女双方に原因がある場合も含めると約半数に男性側の要因が関わるとされています(日本産科婦人科学会, 2022年)。それにもかかわらず、男性が検査を受けるタイミングが遅れることで、女性だけが多くの検査と治療のプロセスを経てしまうケースがあります。

精液検査は男性にとって身体的な負担がほとんどない検査です。早い段階でパートナーと一緒に受けることで、原因の全体像が見えやすくなり、無駄な検査や治療のステップを省けることがあります。当院では、奥さまが初診を受ける際に、パートナーも同日に精液検査を受けることが可能です。

一緒に受けることで変わること

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FAQ

よくあるご質問

精液検査は保険が使えますか?

不妊症と診断されたうえで行う精液検査は、保険適用の対象です。一方、健診目的や妊活開始前の自費スクリーニングとして受ける場合は自費扱いになります。当院での詳しい費用は初診時にご説明します。

禁欲期間は何日が正しいですか?

WHO(世界保健機関)のガイドラインでは、精液検査前の禁欲期間は2〜7日間が推奨されています(WHO, 2021)。2日未満では精子数・濃度が低めに出やすく、7日を超えると運動率が下がる傾向があります。当院では2〜5日を目安にお伝えしています。

1回の検査で結果が悪くても不妊とは決まりませんか?

精液の状態は体調、疲労、禁欲期間、季節などによって変動します。1回の検査結果だけで判断せず、通常は数週間あけて再検査を行い、複数回の値をもとに総合的に評価します。

精液検査の結果が出るまでどのくらいかかりますか?

院内で分析する場合は採取から約30〜60分で結果が出ます。当日または後日に医師が説明します。院外の検査機関に委託する場合は数日〜1週間程度かかることがあります。

基準値を下回った場合、必ず体外受精になりますか?

基準値を下回っても、その程度や他の検査結果によって対応は異なります。軽度の場合は生活習慣の改善や薬物療法、人工授精(AIH)から始めることが多く、高度の場合は顕微授精(ICSI)を検討します。治療方針はご夫婦の状況を踏まえて医師と一緒に決めます。

妻の検査と並行して受けられますか?

はい。当院では男性不妊外来を設けており、奥さまが不妊治療の診察を受ける際にパートナーの検査も同時に進めることができます。カップルで一緒に状況を把握することで、今後の治療方針をスムーズに共有できます。

採取場所はどこですか?自宅から持参できますか?

院内の専用採取室を使うことも、ご自宅で採取して持参することも可能です。自宅採取の場合は採取から1時間以内・体温(37℃前後)を保って持参することが推奨されます。詳細は受診時にご案内します。

References

参考文献・出典

  1. World Health Organization. WHO Laboratory Manual for the Examination and Processing of Human Semen, 6th edition. WHO Press, 2021. https://www.who.int/publications/i/item/9789240030787
  2. World Health Organization. WHO Laboratory Manual for the Examination and Processing of Human Semen, 5th edition. WHO Press, 2010.
  3. 日本産科婦人科学会.不妊症の定義および頻度について(2022年). https://www.jsog.or.jp/
  4. 操レディスホスピタル 培養室 2024年度採卵・移植実績(内部資料)
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操レディスホスピタル 院長

監修 未確定 / 院長承認待ち

操レディスホスピタル 院長(仮置き)

産婦人科専門医・生殖医療専門医(正式資格は院長承認後に記載)

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