精液検査でわかること What semen analysis measures
精液検査(精液分析・semen analysis)は、射精された精液を顕微鏡で観察・計測する検査です。主に以下の4つの指標を評価します。
1. 精子濃度(精子数)
1mLあたりの精子数を測定します。濃度が低い状態を「乏精子症」といいます。精子濃度は、禁欲期間や体調によって日々変動するため、1回の結果だけで判断せず、複数回の測定が推奨されます。
2. 精子運動率
全精子のうち動いているものの割合を「総運動率」、前に進んでいるものの割合を「前進運動率」として測定します。運動率が低い状態を「精子無力症」といいます。卵子のある卵管まで到達するには、精子が自力で泳ぐ必要があるため、運動率は自然妊娠の可否に直接関わります。
3. 精子形態
頭部・頸部・尾部の形が正常な精子の割合を評価します。形態が正常でないと受精能力が低下するとされています。ただし、正常形態率の判定は検査方法( Strict Criteria / Kruger Criteria )によって数値が異なるため、数字だけを単純に比較することには注意が必要です。
4. 精液量・pH・白血球数
精液量が少なすぎる(1.4mL未満)場合は「精液量減少症」、多すぎる場合は精子が希釈されていることがあります。また、白血球が多い場合は感染・炎症の可能性を示唆します。pHが異常な場合は精路閉塞や感染の指標になることがあります。
ここがポイント
精液検査の数値は「受精できるかどうか」を直接証明するものではありません。基準値を満たしていても妊娠しないケースも、基準値を下回っていても自然妊娠するケースもあります。あくまで「次のステップを考えるための手がかり」として活用します。
WHO基準値と当院の判定基準 WHO reference values and our clinical standards
精液検査の基準値として世界的に参照されているのが、世界保健機関(WHO)が発行する「WHO Laboratory Manual for the Examination and Processing of Human Semen」です。2021年に第6版が発行され、2010年の第5版から一部の数値が改訂されました。
| 検査項目 | WHO 第5版(2010年) | WHO 第6版(2021年) |
|---|---|---|
| 精液量 | 1.5 mL以上 | 1.4 mL以上 |
| 精子濃度 | 1,500万/mL以上 | 1,600万/mL以上 |
| 総精子数 | 3,900万/精液中以上 | 3,900万/精液中以上 |
| 前進運動率 | 32%以上 | 30%以上 |
| 総運動率 | 40%以上 | 42%以上 |
| 正常形態率(Strict Criteria) | 4%以上 | 4%以上 |
出典: WHO Laboratory Manual for the Examination and Processing of Human Semen, 5th edition (2010) および 6th edition (2021). World Health Organization. 赤文字は第6版で変更された値。
これらの基準値は、12か月以内にパートナーが自然妊娠した男性のデータから算出した「5パーセンタイル値」、つまり下位5%の境界線です。「基準値を超えれば妊娠できる」という保証ではなく、「この値を下回ると妊娠に時間がかかる可能性がある」ことを示す参考値として理解してください。
当院での判定の考え方
当院(操レディスホスピタル)では、WHO第6版の基準値を参照したうえで、奥さまの検査結果や年齢、不妊期間と合わせて総合的に評価します。基準値を1項目だけ下回った場合でも、再検査を経てから次のステップを提案しており、数値だけで治療方針を決定することはありません。
検査前の準備 How to prepare for semen analysis
禁欲期間:2〜7日間が基本
WHOガイドラインでは、検査前の禁欲期間(最後の射精からの間隔)は2〜7日間が推奨されています(WHO, 2021)。2日未満では精子濃度が低く出やすく、7日を超えると運動率が低下する傾向があります。当院では2〜5日を目安にお伝えしています。
体調・生活習慣の影響
精子の状態は、検査の2〜3か月前の体調・生活習慣の影響を受けています。精子は精巣で約74日かけて作られ、精巣上体で成熟するため、検査の数日前だけでなく、それ以前の体調も結果に反映されます。
- 高熱(38℃以上)が出た場合は、回復後も2〜3か月は数値が低下することがある
- 長期の過労・睡眠不足・喫煙・過度の飲酒は精子の質に影響するとされる
- サウナや長時間の入浴など、陰嚢が高温にさらされる習慣は避けることが望ましい
薬剤の影響
一部の薬剤は精子数・運動率に影響することが知られています。特に抗がん剤、免疫抑制剤、一部の降圧剤、精神科領域の薬剤などは影響が出ることがあります。服用中の薬がある場合は、受診前に担当医または当院スタッフにお申し出ください。市販のサプリメントについても、成分によっては影響する可能性があります。
検査前日までに確認しておくこと
- 禁欲期間が2〜7日(当院は2〜5日推奨)になるよう逆算する
- 服用中の薬・サプリメントがあれば受診時に伝える
- 院内採取か自宅採取か、受診前に確認しておく
- 自宅採取の場合は採取容器を事前にもらい、1時間以内・体温(37℃前後)を保って持参する
精液検査の受け方や準備の詳細は、初診でご説明します。
まずはお気軽にご相談ください。
検査当日の流れ What happens on the day of testing
当院での精液検査は、おおよそ以下の流れで進みます。事前に確認の取れていない部分は、担当スタッフから当日ご案内します。
受診票と問診票に必要事項を記入します。禁欲期間、服用中の薬、既往歴などを確認します。
院内の専用採取室でマスターベーション法により採取します。自宅採取を希望する場合は事前にご相談ください。採取容器は当院でご用意します。
採取した精液を提出します。検体は室温または体温に近い状態で管理することが重要です。時間が経過すると運動率が低下するため、採取後はなるべく早く提出します。
顕微鏡を使って精子濃度・運動率・形態などを測定します。院外検査機関に委託する場合は数日かかることがあります。
医師が検査結果を数値とともに説明します。必要に応じて再検査や追加検査の提案があります。奥さまと一緒に説明を受けることもできます。
結果の読み方 How to interpret your results
検査結果は、WHO基準値と照らし合わせながら3段階でおおまかに評価します。ただし実際の診断は医師が総合的に判断するものであり、数値のみで「不妊」と決まるわけではありません。
正常範囲内
全項目がWHO第6版の基準値を満たしている場合です。ただし、基準値内でも妊娠しにくいケースもあるため、奥さまの検査結果と合わせて総合的に評価します。不妊期間が1年以上続いている場合は、正常範囲内でも追加検査を検討することがあります。
要再検査(1〜2項目が境界域)
1〜2項目が基準値をわずかに下回るか、変動の大きい結果が出た場合は、数週間後に再検査を行います。精液の状態は体調や禁欲期間によって変動するため、1回だけの結果で判断することは適切ではありません。再検査で安定して基準値を満たすようであれば、治療を急ぐ必要がないこともあります。
精査が必要(複数項目が著しく低値)
複数の項目が基準値を大きく下回る場合、または精子がほぼ確認できない「無精子症」が疑われる場合は、追加検査と専門的な治療を検討します。この場合も、治療法はいくつかあり、必ずしも高度な不妊治療が必要とは限りません。
異常があった場合の追加検査と治療 Next steps when results are abnormal
内分泌(ホルモン)検査
精子濃度が極端に低い場合や無精子症が疑われる場合は、LH・FSH・テストステロン・プロラクチンなどのホルモン値を測定します。精巣機能の評価に役立ち、内分泌療法の適応があるかどうかを判断します。
染色体・遺伝子検査
高度の乏精子症や無精子症では、クラインフェルター症候群(47, XXY)やY染色体微小欠失など、染色体・遺伝子の異常が原因となっている場合があります。検査が必要かどうかは医師が判断します。
泌尿器科・男性不妊専門医との連携
精索静脈瘤(精巣への血流障害)や閉塞性無精子症など、外科的な対応が有効なケースでは、泌尿器科・男性不妊の専門医をご紹介します。手術によって精液所見が改善する場合もあり、高度不妊治療をすぐに選ばなくてよいケースもあります。
治療の選択肢
- 生活習慣の改善:禁煙、適度な運動、体重管理、亜鉛・抗酸化物質の摂取
- 薬物療法:ホルモン補充や漢方治療(保険適用の場合あり)
- 外科的治療:精索静脈瘤手術など(手術後に精液所見が改善するケースあり)
- 人工授精(AIH):軽度〜中等度の精子数・運動率低下で有効な場合がある
- 体外受精(IVF)・顕微授精(ICSI):重度の場合や他の治療が奏効しない場合に検討
当院では2024年度に採卵533件・移植523件・臨床妊娠率46%の実績を持っています(出典:操レディスホスピタル 2024年培養室実績)。男性側の精液所見に課題があるケースでも、ご夫婦の状況に合わせた治療ステップを一緒に考えます。
費用と所要時間の目安 Cost and time required
費用
精液検査の費用は、保険診療か自費診療かによって異なります。
- 保険適用:不妊症の診断を受けたうえで行う精液検査は保険対象となります。3割負担の場合の窓口負担は数百〜数千円の範囲が目安です(点数は厚生労働省の診療報酬に基づく)。
- 自費:健診目的や妊活開始前のスクリーニングとして単体で受ける場合は自費扱いになります。一般的な相場は3,000〜8,000円程度ですが、クリニックによって異なります。
当院の費用詳細について
当院(操レディスホスピタル)での精液検査費用は、初診時または検査前にスタッフがご説明します。保険診療か自費かによって金額が変わるため、まずはご相談ください。
所要時間
- 採取・分析・結果説明を含めた来院時間の目安:1.5〜2時間程度
- 分析そのものは院内処理で30〜60分程度
- 院外検査機関に委託する場合は数日〜1週間後に結果が出ます
カップルで受ける意義 Why both partners should be involved
不妊の原因は女性側だけにあるわけではありません。原因が男性側にある割合は約24%、男女双方に原因がある場合も含めると約半数に男性側の要因が関わるとされています(日本産科婦人科学会, 2022年)。それにもかかわらず、男性が検査を受けるタイミングが遅れることで、女性だけが多くの検査と治療のプロセスを経てしまうケースがあります。
精液検査は男性にとって身体的な負担がほとんどない検査です。早い段階でパートナーと一緒に受けることで、原因の全体像が見えやすくなり、無駄な検査や治療のステップを省けることがあります。当院では、奥さまが初診を受ける際に、パートナーも同日に精液検査を受けることが可能です。
一緒に受けることで変わること
- 双方の状態を同時に把握できるため、治療方針の決定が早くなる
- 原因が男性側にある場合、女性が不必要な検査を受けずに済む
- カップルで結果を共有することで、治療への取り組みが協力的になりやすい
- 「自分だけが問題なのでは」という孤立感が軽減される